グラフィックデザイナー
牧 聖一朗 / graphic designer
● 主な技法:デジタル
DOT STARSは「きらめき格子※1」という目の錯視効果を活用し、白い点が黒く光って見える目の錯覚を「星の輝き」に見立て、奇跡の瞬間を切り取ることで、これまで視覚的アプローチで制作されてきた「オプアート※2」を、DOT STARSは情緒的アプローチで構成を試みた。
目の錯視とは、本来、目から入ってきた光の刺激が視神経を通り、脳に伝達され、「何がどう見えているか」と脳が改めて組み立て直対象物を認識し、私たちは物を見ることができるのだが、目の錯視効果では、脳が間違った認識をすることによって目の錯覚が発生すると考察されている。目の錯視効果の研究は、約150年前から進められてきたが、「物を見る」という脳の働き自体に謎が多いことから、未だ解明されていないことが多く、心理学や神経科学では、錯視の発生方法を調べることで、目や脳の働きを考える研究も進められている。
錯視効果を利用した代表的な画家として、オプアートの第一人者のブリジット・ライリー(1931-)や、マウリッツ・エッシャー(1898-1972)が挙げられる。ライリーは、色・形・反復といった要素が、均衡のうえに組み立てられており、幾何学的な縞模様や曲線が観る者に音楽的なリズムを感じさせるアーティストであり、また、エッシャーは、結晶学と数学的手法を用いた構成により三次元では実現不可能な状況を二次元の世界に表現したことで、アート業界よりも数学者や科学者、一般大衆に注目され高く評価された。また強い視覚的イメージに依拠するオプアートは、ロザリンド・E・クラウスやトーマス・ヘスらのように「視覚にのみ訴える」と批判されたが、「大人から子供まで、誰でも楽しむことができる作品作り。」をコンセプトに掲げる牧にとっては、この批判を前向きに捉えている。
DOT STARSは、白い点が黒く光って見える目の錯覚を「星の輝き」に見立て、夜空を表現することで、実際に鑑賞者がその場で夜空を見上げているかのような没入体験が可能となり、錯視効果を楽しむだけでなく、星空を見上げて安らぐことで鑑賞者にリラクゼーションタイムを提供する。その一方で「なぜ光って見えるのか?もっと近くで見たい!」という鑑賞者の私欲によって作品に接近することで、流れ星や星座が元の白い点に戻り、消滅してしまう。この錯視効果の発生から消滅までの一連の動作を「自然破壊」と連想させることで、人類が過度に自然環境へ介入するのではなく、適切な距離を保ち「自然との共生」を考えるきっかけを提案している。加えて、一人一台スマートフォンを持つ現代社会(日本のスマートフォン普及率=96.3%)では、常に下を向いた状態で生活することが常識化(米国での平均利用時間=7時間)し、健康面・精神面での様々な悪影響が問題視されている。それに対し、DOT STARSでは上を見上げることで、「どんな時でも希望を持って生きる。」というメッセージが込められている。
[注釈]
※1きらめき格子(Scintillating grid)
格子の交差点がきらめく理由は、眼球運動と、明暗の検出に関与している神経細胞の時間特性が関係していると考えられるが、まだ判明していない点も多くある1997年に発表された目の錯視。
※2オプアート
オプティカル(視覚的/光学的)・アートの略称であり、緻密に計算された形態や色彩によって、鑑賞者の視覚と直接的に交流し、点滅、振動、幻視などの錯視効果を引き起こす知覚的抽象作品を指す。
[参考文献・資料]
・NTT「きらめき格子」 https://illusion-forum.ilab.ntt.co.jp/scintillating-grid/index.html
・錯視から人間の知覚の謎に迫る https://www.ritsumei.ac.jp/research/radiant/heart/story10.html/
・thisismedia https://media.thisisgallery.com/20222833.
・北岡明佳の錯視のページ https://www.ritsumei.ac.jp/~akitaoka/
・美術手帖オプアート https://bijutsutecho.com/artwiki/30
・DATEREPORTAL「米国での平均スクリーンタイム」 https://datareportal.com
・NTTドコモ モバイル社会研究所「スマートフォン普及比率」 https://www.moba-ken.jp/project/
・東邦大学「スマホ依存について」 https://www.lab.toho-u.ac.jp/med/omori/mentalhealth/mental/smartphone_dependence/index.html

牧 聖一朗 Profile
1996年 京都府生まれ
2019年 嵯峨美術大学 卒業
◆受賞歴
第13回世界ポスタートリエンナーレトヤマ2021【入選】-日本
京都広告賞【金賞】-日本
嵯峨美術大学卒業制作展【最高賞】-日本
愛媛ヤングクリエイターズアワード【最高賞】-日本
POSTER STELLAR 2021【入選】-アメリカ
POSTER STELLAR 2023【入選】-アメリカ
2023アジアデジタルアート大賞展FUKUOKA【入選】-日本
他
◆展示歴
2021年 Dot Stars展 【個展】-日本 恵比寿
2023年 Independent Tokyo 【グループ】-日本 浜松町
2023年 Cores【グループ】-日本 銀座
2024年 Far East Lab 【グループ】-日本 代官山
◆インフォメーション
人生で初めて見た流れ星は本当に綺麗でした。
「もう一度見てみたい!」と何度、空を見上げても
ふたたび流れ星に出逢えることはありませんでした。
地球の奇跡は、私たちが時間とお金を費やしたから見れるものではなく、
奇跡の瞬間に偶然私たちが居合わせたに過ぎません。
だからこそ、私たちはあの光景を昨日のように覚えているのだと思います。
DOT STARSは、
白い点が黒く光って見えるトリックアートの技法を
星の輝きに見立て、地球の奇跡の瞬間を切り取った作品です。
夜の静寂さに訪れる奇跡の瞬間をどうぞお楽しみください。