学生
田中宰 / Tsukasa Tanaka
● 主な技法:様々な手法を用いた漫画
この作品の審査会は4月のはずだった。
コロナウイルスの影響は当然この展示にも及び、審査は3ヶ月もの延長を余儀なくされた。
それでも世界は待ってくれず、1日ごとにまるで違う世界になっていった。
僕の作品が着想されたのは3月の頭である。
皆さんは3月の頭に、何をしていたか覚えているだろうか?
僕はというと、コロナウイルスがどうやら流行っているらしい、くらいの感覚だったと覚えている。まだみんな、コロナを侮っていた。
その時に考えたステートメントを抜粋する。
「ここ1、2ヶ月でコロナウイルスの影響は世界中様々なところへと波及しており、日本にも少なくないダメージを与えている。
日本ではリーマンショックや震災など、大きな事件が起こるたびに何かを買い占める運動が起こる。リーマンショックではトイレットペーパー、震災では防犯グッズ、そしてコロナではマスクに除菌シートなど…。
人は不安を感じた時には自分ではない何かにすがる。
不安が増大すると、カルト的に過剰にその物に頼るようになる。
(中略)
読み手は4コマを読むことで、人々のマスクを引き剥がすことになる。
今はまだ買い占めによる品薄の段階であるが、これがさらに発展すると人のマスクを引き剥がし奪い取り始め、米騒動のような事件が起こる可能性もある。
何重にもマスクをつけたマネキンは買い占め転売する人々を写し、鑑賞者はそれを奪い取るのである。この電車は一つのコマであり、マネキンからマスクを引き剥がしている様は外から見れば滑稽に映るだろう。
作品を通してそんな今現状の我々の行動を、一度引いた目線で観てみてほしい。」
当初のコンセプトは、「深刻なマスク不足により他人のマスクを強奪する、秩序が崩壊し祭りのような状態になった世界」だった。
不確定な情報に踊らされ、マスクやトイレットペーパーや除菌シートを手当たり次第に買い漁る人々(その情報も不確定ではあるが)を引いた視点で風刺するつもりだった。
それから4ヶ月の間にコロナの波は日本のみならず世界中へ波及し、緊急事態宣言が出され、東京アラートが出され、自粛を要請された。身近な人や芸能人が感染したニュースに震え上がった。
改めて僕は自分の作品を見て思った。
他人のマスクを外す行為は、利己的な強奪ではなく、コロナ禍からの解放を意味するのだと。
さらに私は下に置いているマスクは持ち帰っても良いことにした。
これもまた、4ヶ月前は「落ちているマスクさえも拾って利用しようとする人々の世界」であったが、
「コロナ収束後に街中に溢れ返る不要となったマスクを、皆で掃除する」に変化した。
作品が変化したのではない。我々であり世界が変化したのだ。
コロナ禍の4ヶ月を制作途中として渡り歩いたこの作品を見て、今の貴方は何を感じるか。そして、未来の貴方は何を感じるか。
田中宰 Profile
1997年 愛知県生まれ
東京工芸大学芸術学部漫画学科 3年
◆受賞歴
4コマgram主催「4-1グランプリ」山崎隆明賞
第一回「漫喜利」しりあがり寿賞
VIVIVIT公募「つなげて、うみだせ」小島洋介賞
東京工芸大学 同窓会長賞
◆展示歴
写真展「junk」-「妄撮百景」
写真展「皮」-「理想と現実」
◆インフォメーション
東京工芸大学大学院研究科漫画専攻1年。
二年前に本コンペでしりあがり寿賞を受賞。卒業制作ではイエローマジックオーケストラにスポットを当て、デビューから大ヒットするまでを描いた伝記漫画を制作。
将来のファンよりも将来の不安の方が大きくなった今日この頃、再び当コンペへの出場を決意。
YouTube活動も既に2年。火曜日の22時~23時に配信をしているので是非覗いてみてくださいね。
YouTube:電柱治の漫歩計
Instagram:@denchu_osamu