仏師
Tomohiko Kozuka / Tomohiko Kozuka
● 主な技法:木彫/漆箔/彩色
2018年より"未知なる存在である神仏像を巨視的な時間軸で観測した物語により描き直す"をテーマに作品制作を始めました。
幼少の頃より神仏や妖怪などの空想の存在に強く惹かれていて、特にその独特な造形や物語に魅了されてきました。その後、私自身も仏像制作、修復の仕事に従事する中で、密接な関わりを持つようになり、益々その興味は強くなりました。特に先人達はどのように未知なる存在である神仏の姿を形作ってきたか、そのプロセスに興味を持ち研究しています。基本的には経典や儀軌の中にその姿を描写する記述を探し、その記述に沿って忠実にその姿を再現します。しかし現在残っている彫像や図像を見ていると、必ずしもその作法通りでは無い事が分かります。何故なら時代や地域ごとに同じ存在を描写しているにも関わらず、異なる姿で表されているのです。何故こういった差異が起きているのでしょうか。研究していくと、伝わった地域の文化の影響を色濃く反映した結果、という事が分かりました。そして異なる文化圏に移ることで地域ごとの特色を積み重ね、複雑なレイヤーとなって形成されていく事が分かりました。例えば興福寺の阿修羅像、三面六臂の姿が有名ですが、現在この像は手に何も携えていません。しかし本来は日輪と月輪、コンパスと、曲尺を持っています。この図像はどのようにして出来上がったのでしょうか。まず仏教は釈迦が悟りを得た経験を語るところから始まり、長い年月の中で土着の信仰と結び付き、吸収していく事で発展してきた経緯があります。阿修羅像は像そのものが仏教の変遷を如実に語っています。まず阿修羅がインドの神話の神アスラからきており、アスラの起源を遡るとゾロアスター教の最高神アフラ・マズダーに辿り着きます。この様な原点を持つ阿修羅はとても強力な存在だという事が分かります。そして今の様な姿で図像に表されるようになったのは中国大陸に渡ってからです。中国でも阿修羅のもつ最高神的な性格は受け継がれ、更に中国土着の強力な神、女媧と伏犧と結び付くのです。日輪と月輪がアフラ・マズダー、コンパスと曲尺が女媧と伏犧を暗示しています。
この様に一定の不文律のもと、土着の信仰と結びつき、取り入れながら神仏の姿を図像化してきたのです。
私が取り組んでいるのは神仏の姿を不文律に従いながら、過去現在未来を継ぎ目の無い時間軸として捉えた、オルタナティブな物語を加える事で、そこから創造される姿を図像化することです。神仏の説話を巨視的な視座から観測することで、それまでとは異なる解釈、景色が広がります。それらは本筋から逸れたまた別の道筋となり、私自身を未知の世界へと導いてくれます。そこで出会う姿を形にする事、そして物語を伝える事を目指しています。
こういった思いを抱くのは私自身の生い立ちに関係すると思います。私の母親はオカルト的なもの、幽霊話だとかが好きで、本棚には世界の奇譚を集めた本だとか未確認生物の本だとかが並んでいました。そういった本を読み、不可思議な物語と奇妙な造形の存在に胸を躍らせていました。また私はロボットアニメが大好きで、特にガンダムのプラモデルは押し入れが一杯になる程集めていました。これは数年前に母親が言った言葉ですが、ガンダムほど美しいと思ったロボットは見たことない、とここにも母親の影響があったのかと大変驚きました。
未知なる存在の物語やその造形への興味と、近未来の機械への憧れ、そういった感情と共に大人になりました。そして現在、神仏を作るという仕事をするうちに、未知なる存在には儀軌にも経典にも無い、解釈の余白があって、先人達はそこに彼ら自身の生活に密着した存在を重ねてきた。私にとってはそれがオカルトやSF、サブカルという要素で、これらの要素を含んだ物語と、既存の物語を掛け合わせることで、新たな時間軸を作り出し新たな物語を創造する。そして、そこに登場する未知なる存在も新たな発想で創造出来るのではないか。そんな思いを実現させる為に制作を続けています。
今後は仏教や神話だけでは無く、日本土着の信仰や民間伝承に登場する未知なる存在を、過去現在未来が渾然一体となった巨視的な視点で観測し、今まで語り継がれてきたものでは無い、オルタナティブな物語として紡ぐ。そしてそれにもとづいた図像を創造する。鑑賞者がその物語の渦にのまれながらも、そのひと時を楽しんでもらえるような作品を制作していきます。

Tomohiko Kozuka Profile
1984年 愛知県生まれ
2005年 名古屋芸術大学彫塑コース 卒業
2011年 京都伝統工芸大学校 卒業
◆受賞歴
2005 卒業制作優秀賞
2011 京都伝統工芸産業支援センター理事長賞
2022 的場山法城寺本尊造仏感謝状授与
2023 「池袋アートアワード IAG AWARDS2023 」
漫喜利-MANNGIRI-奨励賞
協同組合美術商工友会賞
◆展示歴
2014 増上寺天祭108
2016 渋谷西武"祈りの美"
2016 ぎゃらりー無垢里"彫刻鍛冶と作家たち"
2018 ニコニコ超会議"仏像彫刻定点生放送"
2018 北海道東川町せんとぴあ"彫刻鍛冶と作家たち"
2019 ニコニコ超会議"仏像彫刻定点生放送"
2020 ニコニコネット超会議"仏像彫刻定点生放送"
2022 ニコニコ超会議"仏像彫刻定点生放送" 仏像展示
2023 「池袋アートアワード IAG AWARDS2023 」
2023 「 第 71 回埼玉県美術展覧会 」
◆インフォメーション
私は仏像の制作、修復等を行う小塚工房を運営しながら、そこで得た知見をもとにして作品制作をしています。
主に神話、仏教説話、民間伝承をモチーフとして、過去現在未来が同時に存在するという時間の概念を彫刻で表現しています。